男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
「はい。兄のフランツです。顔は似ていますが、性格は似ていないと言われます。今、国境近くに住んでいる病気の叔母のお見舞いに行っており、不在なんです」

「フランツが不在で私は幸運だったな」
 

クロードは上機嫌にワインを口にしてから微笑む。


「え……」

「お前と会うことが出来たからな」

クロードがそう思ってくれてミシェルはホッとする。そう思っていると言われていたが、何度も言われるとクロードの心からの言葉だと安心する。
 
食事が済み、クロードはミシェルを隣の談話室へ連れて行った。
 
アベルもふたりの後から入室し、観音扉の窓を大きく開ける。そこはバルコニーへ通じている。
 
窓から爽やかな緑の匂いと、ほのかにバラの香りも漂ってくる気がした。


(素敵な夜だわ。今日のことは一生の宝物)


ミシェルは心に今日の出来事を刻み込む。
 
その時、ビロードのような滑らかなワルツの曲が聴こえてきた。


「陛下っ、音楽が聴こえてきます!」
 

ミシェルはドレスに気をつけながら窓辺へ進む。そうするともっと柔らかい音色はもっと大きく聴こえてきた。
 
バルコニーへ出たミシェルは手すりに手を置いて下を覗き込む。


「あっ!」
 

下に四人の楽器を持った男性が音楽を奏でていた。

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