男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
ミシェルとフランツは双子だ。

現在、ベルナディス国の外れにある叔母エレナの家を訪ねており、あと二十日ほどで戻って来る。そして侍従長になるべく、見習いから始める予定である。
 
ロドルフのおかげで貴族のような贅沢とまではいかなかったが、ドレスも食事も町人よりは不自由のない暮らしをしていた。
 
近所に友達もいるが、母とふたりで暮らすのは少々寂しい。仲がいいフランツがいれば楽しいのだが、今は叔母のところ。そして、戻り次第、王城へ行ってしまう。

祖父は滅多に帰ってこなかった。しかし戻って来る時は食べきれないほどのお菓子やドレスなどの土産で、ミシェルを喜ばせてくれていた。
 
ミシェルは弾むような足取りで柵の中へ入り、穀物を細かく砕いたエサをニワトリにやる。ニワトリがエサを食べているうちに、手作りのニワトリ小屋の中で産まれた卵を取らせてもらう。

今日の収穫は五個だ。
 
卵が入っている籠を大事に抱えて、ミシェルは家の中へ入った。
 
部屋にはマリアンヌが焼いたパンの香ばしい匂いが漂い、ミシェルは香りを楽しむように鼻を引くつかせる。
 
マリアンヌは台所で野菜を洗っていた。ミシェルは母に近づく。


「お母さん、卵、五個あったわ。どうやって食べる? いつものがいい?」

 
マリアンヌはヤギのバターをたっぷり入れて焼く卵焼きが好きだ。


「そうね。そうしてくれる?」

「はい」

 
ミシェルはにっこり笑い、空色の瞳を深めた。

ここでは空色の瞳は珍しくないが、シルバーブロンドの髪はブロンダン家以外見たことがない。祖先はずっと北のほうの出身で、いつしかこの国に移り住んだのである。
 
ベルナディス国の人は大抵、茶色の髪や黒髪だ。
 
婿養子で亡くなった父が茶色の髪だった。
 
ブロンダンの血を濃く受け継いでいるマリアンヌはシルバーブロンド。双子のフランツや祖父ももちろんそうだ。
 


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