男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
テーブルマナーを兼ねた昼食後、ミシェルは部屋で刺繍を習っていた。

約五ヵ月後の挙式の際、花嫁が刺繍をした婚礼衣装をクロードが身につけることがこの国の風習だ。
 
しかし、今まで凝った技法の刺繍をしたことのないミシェルは悪戦苦闘していた。


「ミシェルさま、そこに針を刺しては花びらの形にはなりません」

「ぁ……すみません。いたっ……」
 

年配の女教師に頭を下げた拍子に、針で指をチクリ刺してしまう。


「そのようなことでは五ヵ月間で仕上がりませんよ」
 

メガネの端を持ち上げて、小言を言う女教師だ。


「はい。頑張ります」
 

針で刺した傷口からはぷっくり浮き出ている。ミシェルはハンカチを傷口にあてた。そのハンカチは何ヵ所も血が付いている。


「慣れない刺繍は大変でしょう?」
 

不意に綺麗な女性の声が入り口のほうから聞こえた。


「イヴォンヌさま!」
 

慌てて立ち上がったミシェルの元へ優々たる足取りで近づくイヴォンヌだ。侍女ひとりが付き添っている


「ごきげんよう。ミシェルさま」
 

イヴォンヌは微笑み、ドレスの端を少し持ち上げて膝を折る。優雅なイヴォンヌにミシェルは見惚れる。


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