男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
「イヴォンヌさま、こんにちは。お身体は大丈夫なのですか……? お掛けになってください」


どうしてイヴォンヌがやって来たのか不思議に思いながら、表情には出さずにまず身体を心配した。


「ええ。怖い思いをしたので、少し体調を崩してしまったけれど動けるようになりましたわ。クレマン夫人、お久しぶりね。少し休憩してもよろしい?」
 

イヴォンヌはミシェルの対面のソファに腰を下ろす。刺繍の教師とイヴォンヌは知り合いだった。


「イヴォンヌさま、この度のことはご心労お察し申し上げます。ミシェルさま、今日はここまでにいたしましょう。明日までに一輪完成させてくださいまし」

「はい。明日お見せできるようにがんばります」
 

ミシェルと約束したクレマン夫人はふたりに挨拶をして出て行った。扉がピタリ閉まってからイヴォンヌは口を開く。


「クレマン夫人は口うるさいから大変でしょう?」

「そんなことありません。私が下手なので……」
 

上流貴族の令嬢は幼い頃から刺繍を習い上手に出来るが、ミシェルには初めて見る刺し方で戸惑うばかりだった。


「慣れたらすぐに出来るようになりますわ。なぜ私が来たのか不思議でしょう?」
 

イヴォンヌは微笑み続ける。
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