男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
「ひどいではないですか。すぐに傷薬をお持ちいたしましょう」

「平気ですっ」 

「いえいえ。陛下が嘆かれましょう」
 

アベルは部屋を出て行き、少ししてからベアトリスを伴って戻って来た。


「ミシェルさま、指をお見せ下さい」
 

跪いたベアトリスに言われ、ミシェルは左手を出した。


「ベアトリスさん、わざわざ来てくれてありがとうございます」

「とんでもございません。何度も刺してしまった跡が……」
 

ベアトリスは念入りに左手の親指と人差し指を見て薬を塗った。


「不器用だから……」

「誰でも最初はうまくいきませんわ」
 

ベアトリスは落ち込む様子のミシェルに微笑み、刺繍の邪魔にならないように薄い布を巻いた。


「これなら刺繍に差し支えないと思います。気を付けて刺繍をしてくださいませ」

「はい。ありがとうございます」

「それでは失礼いたします」
 

ベアトリスが出て行くのを扉横に控えていたアベルが見送る。まだ残っているアベルにミシェルは言う。


「アベル侍従、クロードさまがもうそろそろお戻りなのでは……?」
 

二十一時を回った時刻だ。



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