男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
「あっ、イヴォンヌさまにご挨拶がまだ……」
 

不満げな声を漏らすミシェルにクロードは「長居すると正体がバレる」と小声で諭した。
 
ふたりを見送るイヴォンヌの美しい顔が歪んだ。ふいにミシェルが振り返り、その顔を見られた。



クロードは以前待ち合わせをした川辺の座り心地がよさそうな石にミシェルを座らせた。
 
草むらに咲いている小さな黄色い花をクロードは一輪摘んでミシェルに渡す。


「ありがとうございます。可愛いです」
 

村でミシェルが頻繁に摘み、テーブルに飾る小花だ。

甘い香りがして母マリアンヌが好きな花。そして「この花はミシェルみたいだ」とよく言われたものだ。
 
小さな黄色い花を鼻のところまで持ってきて匂いを嗅ぐ。
 
甘い香りを吸い込みながら、ミシェルはイヴォンヌが気になっていた。


(悲しそうな顔だったわ……イヴォンヌさまはクロードさまをずっと好きだったとおじいちゃんが言っていた。やはり私たちのことはショックだったに違いない)


「なにを考えている?」


花を見て黙り込んでしまったミシェルの両頬にクロードは手を当てて自分のほうへ向かせた。
 
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