男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
「陛下のご婚約者のミシェルさまに近づくのも恐れ多いかと思われますので、大丈夫かと思いますが」

「いや、念には念をだ。わかったな? アベル」

「かしこまりました」
 

そんなやり取りを、初めての夜会で緊張しているミシェルは聞きながら両手をギュッとドレスを掴んだ。

 

ドローヌ伯爵の屋敷は町から少し離れた場所にあった。
 
国王が婚約者を連れて出席する旨を、あらかじめ使者を出しており、ドローヌ伯爵邸に到着すると、上流貴族たちがずらりと並んで待っていた。
 
ミシェルは先に降りたクロードの手を借りながら馬車から出る。その好奇心いっぱいの無数の目に驚き、怖気づいてしまうミシェルだ。
 
手の震えが分かったのか、クロードは馬車から降りたミシェルを不意に抱きしめる。それを目にした女性たちは悲鳴を上げる。


「堂々としていればいい」
 

クロードに抱きしめられ、大好きな香りに包まれたミシェルは落ち着きを取り戻す。  
 
この屋敷の主ドローヌ伯爵がふたりの前に立ち、歓迎のお辞儀をする。

ドローヌ伯爵は口髭と顎髭をたくわえた恰幅のいい五十代の男だ。

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