男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
(私の心臓が変……)
 
胸をきつく締めつけているせいだろうか。

ミシェルは静かに侍従服の平らな胸のあたりに手をやった。


「クロードさま、即位一周年の晩餐会はもうすぐですわね」
 

イヴォンヌはクロードの求婚を心待ちにしている。即位一周年を節目にそろそろではないかと思っていた。
 
口元を拭ったシルクのハンカチが、イヴォンヌの手からふわりと床に落ちた。


「あ!」
 

ミシェルは拾っていいものか考えてしまい、動けなかった。


「なにをしている? フランツ、新しい物を持ってこい」
 

クロードのきびきびした声が飛んでくる。


「あ、新しい物ですか……?」


(そんなのどこにあるの……?)
 

ミシェルは困った。


「アベルに聞け」
 

短く冷たい声色でクロードに言い放たれ、ミシェルは恐れながら「は、はいっ!」と返事をしてから東屋を出た。



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