男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
なんとしてでも辞めさせられるわけにはいかない。

一ヵ月はしっかり勤めなければ、なんのために男装になったのかわからない。しかも女の子だとバレるわけにはいかないのだ。


「間者か……」
 

クロードは口元を歪め、小ばかにしたような笑みを浮かべた。


「ヴァ―ノン、衛兵は弱々しいこの者が私を殺せると本当に思っていたのか? だとしたら、そいつらは辞めさせろ」

「御意」
 

クロードの命令にヴァ―ノンは膝をつき頷く。
 
床に額を付けているミシェルの頭をクロードは見つめていた。


「お前、頭を上げろ」
 

ミシェルはおそるおそる頭を上げて、クロードへ視線を向けるが、漆黒の瞳と合ってしまい、急いで目を伏せる。


「主棟からこの東屋まで十往復して覚えるがいい」

「わかりました」
 

ミシェルはたいした罰ではなく、ホッと安堵したが、クロードの次の言葉にギョッとなる。


「ただの十往復ではない。全速力で走るんだ」


(私が全速力で走るの……?)


生まれてから今まで全速力で長い距離を走ったことがないミシェルは自信がない。


「ヴァ―ノン、一周だけ付き合え。フランツ、ヴァ―ノンの後に続け」
 

ミシェルが困惑しているうちにクロードのビシッとした命令が下された。


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