男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
(陛下の命令は絶対……)
 

ミシェルの呼吸はこれ以上ないほど乱れ、何度立ち止まったことか。
 
主棟の階段のところでアベルが心配そうに見ている姿に励まされ、ミシェルはなんとか残りをがんばった。


フラフラしながらもミシェルはようやく国王陛下の私室の前まで来た。そこで扉が開き、偶然にクロードが出てきた。

「は……っ……ぁ……は……、へ、陛……下っ……」
 

ミシェルは十往復走り終えたと報告しようとその場で膝を着いたところで、意識がフッと途切れて床に倒れた。


「フランツ!」
 

クロードの後ろに控えていたアベルが駆け寄るが、その前にミシェルは国王によって抱き上げられていた。


「陛下、私が!」
 

アベルはクロードがミシェルを抱き上げたことに驚き、意識のない身体を抱き取ろうと腕を差し出す。


「いい。私が運ぼう。部屋に案内しろ」
 

クロードはそう言ってさっさと廊下を進む。一瞬、呆気に取られたアベルは我に返ると、ミシェルを抱いて歩く国王を追い抜いて二階の部屋へ案内を始めた。

国王に抱き上げられているミシェルは軽い振動で意識を取り戻した。次の瞬間、身体がぎくりと固まる。

国王陛下に抱き上げられていることに驚き絶句するミシェルだが、その時、漆黒の瞳が彼女を見た。


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