男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
「だからお前ひとりで行かせるのは嫌な予感がしたんだ。十往復は衛兵の訓練でもきついだろう。大丈夫か? 気分は? 侍医を呼べとのおおせだ」

「アベル侍従、申し訳ありませんでした。少し休めば大丈夫です」
 

胸の苦しさはリボンを外せばなくなるだろう。

いや、それ以前に侍医に診せることになれば女だとバレてしまう。それだけは避けなけらばならない。たとえ死にそうになっても。

心配するアベルに罪悪感を抱きながらミシェルは首を横に振る。


「こんな風に走ったことがなかったので、失態を見せてしまいました……大丈夫です。少し休んだら仕事をしますから」

「今日はずっと寝ていなさい。夕食時にお前が姿を見せたら陛下はお怒りになるだろう。驚くことに心配しておいでだった」


(心配……? 命令した張本人なのに……?)


走って覚えさせるほどのことでもないことで、国王の意地悪な命令に内心腹を立てていた。もちろん表に出せるわけがない。


「ああ。私たちのような者を抱き上げることなど陛下はしない。長くお仕えしているが初めてのことだ」
 

アベルは考え深げに腕を組む。そうして――


「お前が女の子のように可愛いから、陛下も放っておけなかったのかもしれないな」
 
と、口にしてミシェルの心臓を大きく跳ねさせた。


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