男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
 ガシャン!

手の震えが災いを招き、ミシェルの手からカップが滑り落ちてテーブルの上に落ちた。


「ああっ!」
 
カップとソーサーは割れなかったが、ミシェルの手に熱いお茶がかかる。だが、それどころではない。
 
ミシェルは青くなって、その場に膝を付いてひれ伏せる。


「申し訳ありません! や、火傷はしませんでしたでしょうか!?」
 

それほど飛び散らなかったのが幸いで、一瞬だったが国王までお茶が届かなかったのを確認したミシェルだが、慎重に言葉にした。
 
アベルが急いでやって来て青い顔で国王に謝り、テーブルの上のお茶を拭く。


「まったく……先が思いやられるな。食事は執務室へ運べ」
 
クロードはソファから立ちあがり、背筋が凍りそうになる声色でアベルに命令した。
 
怯えるミシェルはまだ顔を上げられない。
 
扉の開閉音がして、ようやくミシェルは身体を起こした。


「アベル侍従、申し訳ありませんっ! また僕はヘマをしてしまいました……」
 
国王の前でやってはならないことをやってしまい、ミシェルは落ち込む。


「仕方ない。まだ陛下のお姿に慣れていないんだ。陛下の前では最初は誰でもやらかしてしまう」
 

威圧感に満ちた国王。仕える者はよほど神経が太いか、心臓に毛が生えていない限り、こんな風なこともある。
< 48 / 272 >

この作品をシェア

pagetop