男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
ミシェルは泣きそうになっていた。


「フランツ、落ち着くんだ。大丈夫だ」
 

このまま辞めさせられたら、祖父の期待を裏切ってしまう。


(なんてドジをしちゃったの……? 陛下と目が合ったら、心臓がおかしくなっちゃった)
 

ミシェルは自分の胸に手を当てる。
 
今は高鳴る鼓動は治まっていたが、手に嫌な汗をかいていた。それは自分の処遇がどうなるか不安だからだろう。


「そんなに心配しなくても大丈夫だ。普段ならもっと叱責を受けていたぞ。お前は運がいい」
 
アベルもあの時、ミシェルを叱らなければならない立場だっただろう。

しかし、ミシェルのほんわかした雰囲気にアベルは怒れない。それは国王陛下も同じだったのではないかと、アベルは心の中で思った。


「……僕は辞めさせられないでしょうか」

「ははは、そんな心配は無用だ。さあ、陛下のお食事を執務室へお運びしなければならない」


アベルはミシェルの落ち込む肩をトントンと叩き慰めてから、その場を綺麗に拭き上げた。
 
ミシェルはカップとソーサーをトレーに戻しながら、もっと注意しなければと反省した。


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