男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
「う~ん。美味しいっ! マーサのお料理は最高ね」


パンをスープに浸して口の中に放り込むと、満足げに微笑む。
 
ミシェルが食べている間に、客が食事にやって来た。次々と客が入ってくる。マーサの店はやはり人気のようだ。
 
俯いて食べているところへ、聞き覚えのある声がしてミシェルはハッとなる。


「おかみ、スープとパンをくれ」
 

声がしたのは自分の前の席から。


(声が……陛下に似ている……)
 

まさか国王がこんなところにいるとは思わないが、ミシェルは顔を上げられなかった。


「おや、クロード久しぶりだね」
 

マーサの上機嫌な声がした。


(ク、クロードっ?)
 

ミシェルは心臓を跳ねさせた。クロードは国王の名前でもある。


(ううん。クロードなんて、めずらしいわけじゃない。この国ではクロードやパスカルといった、生まれた王子さまにあやかろうと同じ名前を付けたりする)


ミシェルは気にしないようにして、パンを口に運んだ。
 
そこへ――。


「ミシェル、紹介するわ」
 

マーサに話しかけられて、ミシェルはおそるおそる顔を上げて目の前の男に視線を向けた。
 
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