男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
「ミシェル、よろしく」
 

王城にいる国王とは思えない笑顔を向けられて、ミシェルは息を呑む。


(もしかしたら、この方は陛下じゃない……? こんなに親し気に微笑まないもの……そもそも私は陛下の顔をよく見たことがない……)
 

ミシェルは判断に困った。とにかく食べ終えて、彼から離れるのが一番だ。
 
マーサは一度奥へ引っ込み、湯気の立ったスープとパンを持ってきた。ミシェルはもう少しで食べ終わる。

そうしたら、さっさと町へ繰り出そう――。
 
そう思っていたのに、マーサはふわっふわの卵色をしたケーキをミシェルの目の前に出した。


「ミシェル、これも好きだろう? いっぱいお食べ。クロード、ミシェルは可愛いだろう? 私の娘みたいなもんなんだよ」
 

食べているクロードにマーサは同意を求める。


「マ、マーサっ、なにを言ってるのっ? 可愛くなんか――」
 

ミシェルは顔に血がのぼってくるのを感じながら否定しようとしたその時――。


「いや、可愛い」
 

クロードの言葉にミシェルの空色の目がまん丸くなる。


「か、可愛くないですっ」


(陛下がそんなことを言うはずない。やっぱりよく似ている人なのかも)


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