男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
「ただいま、お茶をお持ちいたします」


アベルは急いでお茶の用意を始めようとするが、クロードは止める。


「いや、よい。ここへ来い」
 

さらに困惑が深まるアベルはクロードが座るソファの横へ立った。


「あの者が女だとは知らなかったようだな」

「もちろんでございます。ロドルフ侍従長がそのような嘘を吐くとは思ってもみませんでした。男にしては小柄だなと思っておりましたが」
 

アベルは共犯でないことをわかってもらいたくて、饒舌になる。


「陛下を騙したフランツ、ロドルフ侍従長は重罪に値します……」

「お前、先ほど言ったことを聞いていなかったのか?」


クロードは片方の眉を上げてアベルへ視線を向ける。


「えっ……?」

「私は知らなかったことに、と」

「い、いいえ。それは聞いております……ですが……」
 

アベルの顔は青ざめ、ひょろっとした身体が動揺で揺れる。


「私はあの者が気に入っている。知らないことにして侍従見習いをさせろ。私は談話室にいる。侍医が来たら通せ」

「は、はいっ。かしこまりました」
 

アベルは深く腰を折ってクロードが隣の談話室へ入って行くのを見守った。


(騙されていたのに陛下は怒りを見せるどころか、侍従見習いを続けさせるという……そしてフランツを気に入っていると。後で酷く罰せられるのではないだろうか……いつになく上機嫌であることは間違いないのだが)


アベルはこの先を思い、身を震わせた。


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