今夜、シンデレラを奪いに
頭をそっと撫でられていた。意地悪な言葉を投げ掛ける人の手とは思えないくらい優しい感触。


「……外見も立場も関係なく大切に思われたら、たとえ相手に恋愛感情がなくても特別な存在には違いない。

黙ってないで伝えれば良いのに。」



「ふふ、ひとつだけあなたのことがわかりました。きっとモテない人ですね。

仮に鴻上さんに今の言葉を伝えても、私なんか大勢いるうちの一人になるだけですよ」


「人がせっかくフォローしてるのに……失礼な言い種だな」


むすっとした言い方に親しみが湧いて、撫でてくれる手の方向に顔を傾ける。その人の肩に顔があたって、ワイシャツの布が張り付いた。


「ついでに涙も拭かせて下さいね。化粧落ちてると思うので多分シャツ汚れると思いますけど」


「……ガサツな女」


そう言いながらも、後頭部に乗せられた手には重みが加わって、肩に顔が押し付けられる。骨っぽい肩の感触と、男の人らしく隆起した筋肉のある胸元に体か触れる。


真っ暗なのになぜか安心する。好きなだけ泣いていいと言われてる気がした。


髪を撫でた手が滑り、今度は背中をぽんぽんと優しく叩かれる。心地いい。苦しさが闇に溶けていくような不思議な感覚に落ちていった。


この人、わかりずらいけど優しい人なのかもしれない。そうでなきゃ、私をオフィスに放置していたはずなんだから。


「あなたがやろうとしてることに、協力してくれる人はいるんですか?」


「何のことだ?」


「とぼけないで下さい。打ち合わせの内容をこっそり聞いてたくせに。きっと何かの調査をしてるんですよね」


「興味を持つな。忘れろ」


「誰も頼れる人がいないなら、私が協力してもいいですよ?」


「あなた、どれだけ呑気なんだ?俺が不正をしていたら、その片棒を担いでもかまわないと?」


「いえ、そんな人には思えませんし。

…………それに、一人で仕事するのは辛いですから。私も鴻上さんが異動してから、ずっと一人で」


「あなたに心配される謂れはない。間抜けの協力など足手まといにしからならないから、身の丈にあった心配をしろ。」


ぴしゃりとはね除けるように言われて、それから先は何を聞いても「知らなくていい」の繰り返しだった。
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