今夜、シンデレラを奪いに



「そうですね。確かに俺もコイツの靴を舐めるなど死んでも御免です。

そういうわけなんで、多少ちくっとすると思いますが我慢してください」


「…………へ?」


耳を疑う言葉が返ってきた。真嶋は全くもっていつも通りの、ツンとすました顔をしている。


「本当にあなたという人は………。これでは俺の心臓がいくつあっても足りないじゃないですか。

いつも他人に警戒心を持つようにと言ってきたでしょう?少しは痛むと思いますが、授業料と思って反省して下さいね。」



「あのね真嶋!そんなに軽ぅーく同意されると、さすがに傷付くっていうか!

もうちょっとほら、他に言い様あるんじゃないの!?普通はこういうときに『止めろー!』とか叫んだりして………」



「先程は、早く打てと言ってたくせに」



くすりと笑って、ジジイ二人を無視して話を進める真嶋に「ふざけてるのか」と怒りの声が飛んだ。


「こっちは廃人になるかもしれないって時にその冷たさはどうなのよ!あんたそんな奴だったの!?」


真嶋は「ふっ」と人の悪い笑みを浮かべる。


「あぁ、それなら大丈夫です。中身はただのビタミン剤です。

疲労回復の他に、多少の美容効果もあるそうですよ。」



「な、な…………な!!!」



「薬剤は事前にすり替えました」



「分かってるなら、早く言ってよーーー!!!」



「すみません」


へらっと笑った真嶋にぐにゃぐにゃと視界が歪む。

なんっだコイツ!こっちは死ぬかと思ったのに!!私が人間不信になったら真嶋のせいだ。もう絶対許さない!


「物騒な薬など持ち込ませるわけないでしょう?ワインに混ぜた薬も同様です。


まれに自らの勝ちを確信することで欲望を全て吐き出すというタイプの人間がいるんですよ。ですから少々茶番につき合う必要があったんです。


この人の欲の果てに何があるのか興味があったんですが、結局はつまらない出世の望みでしたね。正直期待はずれですよ。」


立ち上がった真嶋が、靴を舐めさせようとしたジジイを蹴倒した。一瞬の出来事でよく見えなかったけど、気がつけば地面に踞っている。


そのジジイに対して追い討ちをかけるように「想い出のワインは旨いか?」とトポトポと浸すようにワインをかけている。



「うわ、真嶋酷っ…………」


「聞き捨てなりませんね、これでも寛大な処置ですよ」


ワインの空き瓶を置くなり、逃げようとした部長の首根っこを真嶋がひょいとつまみ上げる。


「ひっ」


「トウ……まりあさんをベタベタと触っていたのはコイツですね。

確か探し物がこの辺にありそうなんですが」


真嶋は何を探しているのか、部長の体をつかんでバキバキと物騒な音を立てる。探すついでに関節技でもかけているらしい。


「見当たらないな

ここ?それともこちらか?」


「それもう絶対見つけてるよね…………」


ぐったりと横たわった部長から、小さなピンのようなものををつまみ上げる。さっき私が付けた超小型集音マイクだ。


「…………さて、まりあさんはこの音声の転送先がひとつではないことをご存知ですか?」
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