今夜、シンデレラを奪いに
「転送先?普通にBluetoothじゃないの?だから私のイヤフォンに………」


「やはり知らされていませんか。これは特定のコードに自動送信されるようになってます。」


髪をかき上げた真嶋の耳にも、ワイヤレスイヤフォンが見えた。


「まさか、全部聞いて…………」


「はい。まりあさんの非常にエキセントリックな音声が勝手に聞こえてきた時の俺の気持ちを、少しは想像して頂けますか?」


こっちは必死で姿を隠していたのに、この店に入ってきた瞬間から真嶋にはまりあが私だとわかってたんだ………。色々と空しくなって「ははは」と笑いが込み上げる。



真嶋は私の背後にいるボーイの姿をした男の人に視点を定めた。

さっきまで体を押さえつけられていたけど、その人はこの状況にどうしていいか分からないのか棒立ちになっている。


「暴力をふるっていたのはお前だな」


「わ、私は命令に従っただけで………」


罪滅ぼしのつもりなのか私を真嶋に突き返すように背中を押され、よろめいた体を真嶋に受け止められる。

心の準備もなく急に距離が近付くとどうしていいか分からない。


「本当に、すみません…………怖い思いをさせて。痛かったでしょう」


真っ赤に腫れた腕を見た真嶋の顔が苦しげに歪んでいて、そういう顔をされると何も言えなくなってしまう。


「これもお前がやった仕業か。抵抗出来ない相手に、力づくで……。自分が何をしたか身を持って味わえ。」


その人をうつ伏せにして床に押さえつけた真嶋は、鞄から注射器を取り出す。


「これは事前に押収した物品なんだが、『廃人』などと言っていたのは本気だろうか。それとも俺を脅すためのブラフだろうか。

お前はどちらだと思う?」


「し、知らない。そんなことは、ただ俺は女を脅せと…………」


「お前の体で試せば、簡単にわかると思わないか?」


真嶋は男の人の腕を出して注射針を当てる。さっきの私と同じように、針が皮膚を押して今にも刺さりそうになっている。


「や、やめろ…………、やめろ!止めてくれ!!」


「そう言った相手に、お前は何をした?」


ただ事じゃない真嶋の様子に思わず止めに入ろうとした瞬間に、その男性はバタっと気絶した。


「まりあさん、普通はこういう反応をするものなんですよ。

とはいえ、これもただのビタミン注射なんですけどね。」


「はーーーー…………。真嶋、怖すぎて心臓に悪いから。この人は手下みたいだし、そこまでしなくても」


「殺されかけておいて何を言ってるんですか。お人好しにも程がある。

これでも十分寛大な対応ですよ。俺が仕事中なことを感謝しろと言いたいくらいです。」
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