今夜、シンデレラを奪いに
「透子がそういうことを言い出しかねないからですよ、お人好し。」


真嶋はため息をついて、できの悪い生徒を咎めるような顔をしてる。


「理由は2つ。一つ目は単純に危険だから近寄って欲しくありません。

俺に関わらなければ、透子は先ほどのような目に会うこともないでしょう」


「そうかもしれないけど……っ。そんなことどうだって」


「良いわけないでしょう。

そして二つ目。さっきの店で透子は怒っていましたよね」


「当たり前でしょ。あのジジイ達が真嶋を陥れるために何をしようとしたのか知ってるでしょ?

私を人質にする前は、真嶋に薬を飲ませて罠にかけようとしてたんだよ!?」


真嶋は怒っている私を見て面白そうに笑う。どうして?何がおかしいのかわからない。


「あの場にいた最も汚い人物は誰か」


「そんなの考えなくてもわかるでしょ!あのジジイ二人に決まってる。」


「透子が憤慨している罠など俺には簡単に思い付きます。だからこそ事前に手を打てるんです。

汚い人間を騙すのは、それ以上に汚い思考の持ち主でなければ務まりません。俺にとっては彼らの企みなど可愛いものです。」


「まさか自分が一番汚いって言いたいの…………?」


「自明でしょう」と真嶋が笑う。怒りで全身がカッと熱くなった。運転中じゃなかったらバチンと殴ってやるのに。


「推理できるのと実際にやるのとじゃ全然違うでしょ」


「いえ、実際にやりますよ。

使える手段は何でも使います。先程は透子のことすら利用しました。」


「え? ………こう言っちゃなんだけど、私、押し掛けといて何の役にも立てなかったじゃない。それどころか助けて貰っちゃって、真嶋の足を引っ張って」


「確かにまりあさんの奇妙な口調には、笑いをこらえるのに苦労しましたよ。

虫を掴んでグラスに投げ入れときには、俺を笑わせようと試みていたのかと………」


小さく肩を揺らして笑っている真嶋に顔が赤くなる。ずっと真面目な話をしていたくせに、今ここでそれを言うなんて。


「後で馬鹿にされるとは思ってたけど………いろいろと仕方なかったんだって」


「嘘です。あなたが懸命に俺を守ろうとしているのは十分分かっています。」


真嶋は車を停めてこちらを向いた。「嬉しかったです」と頬に手を伸ばす。

暖かな手に触れられると呼吸の仕方が分からなくなった。
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