今夜、シンデレラを奪いに
「透子はこれ以上無いくらいに役立ちました。あなたが人質として捕らえられた時は『絶好の機会だ』と思いましたよ。

彼らが俺を出し抜いたと信じたのも、あなたが本気で怯えていたからです。全ての情報を吐かせるのに十分でお釣りが来るほど、彼らは油断した。

そこにつけ込んだのがさっきの俺です。もうわかりますよね?」



「ごめん………考えがまとまらなくてよくわからない。手をどけてくれたら、もうちょっと考えられるかも」



「いえ、考えなくて良いです。

透子の信頼も優しさも、俺には受けとる資格がありません。怖がるあなたをすぐに助けることもできたのに、恐怖心すら利用するような人間ですから。」


魂を抜かれるんじゃないかというくらい美しい笑顔で真嶋が言った。こういう顔をするとき、真嶋は絶対自分の本心を隠してる。


私が真嶋にどうしても伝えたいのは何だった?


私は真嶋と話をするためだけに、高柳さんを巻き添えにしてまでずっとずっと準備をしてきたはずなのに。それなのに頬に添えられた手ひとつで、頭に靄がかかったように会話に集中できなくなる。


「利用?けっこうなことじゃない…………。

これでも私は真嶋の仕事を手伝いに来たつもりで、真嶋の足を引っ張るくらいなら、使われたほうが、ずっと………。

ね、あのさ。情けないんだけど、頭がフワフワするから、大事な話の途中なんだから、手を」


「ふふっ、透子は今日、仕事で来たんですか?

俺に会いに来てくれたと思ったんですが、残念です。」


気がついた時には真嶋の腕の中にいた。ジャケット越しに、固い体の感触に包まれる。こんな状況では、ますます意識が蕩けてしまう。


「真嶋は私を遠ざけたいの?ここにいてもいの?…………本当に全然分からないんだけど」


「すみません、もうあまり時間が無いかと思うと我慢できず、」


「え?」


「いえ、こちらの話です。

美しいからこそ、遠くにあってほしいという願いを知ってください。そういう思慕もあるのだと」


固く抱きしめられた腕が痛いくらいに強くなった。私を追い払おうとしているくせに、その手は私を所有物だと主張してるみたいだ。


「難しい言葉は分からないから分かりやすく言って」
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