今夜、シンデレラを奪いに

11 Summer Snow

ふかふかの大きなベッドで目が覚めた。


窓からはきらびやかに光る観覧車が見える。まだ夜だった。海辺にはかまぼこみたいな形のホテルも見えるから、ここは横浜なんだろう。


寝ころびながら伸びをすると両手は自由に動いた。想像通り、ネクタイはほどかれている。



どうか、どうかここに居て。



ベッドから降りて、祈りながらゆっくり歩いていく。






ひと続きになっている部屋の奥に灯りがついていた。そこに、見馴れた美しい仏頂面の真嶋がいた。


良かった…………本当にいた。

きっと大丈夫とは思っていたけど姿を見るまでは安心できなかったから。







「…………ですから、これはどういうことかと聞いているんですっ!」


真嶋は電話中なのかムスっとした顔で話している。

あぁ、怒ってる怒ってる。私は知らないもん。高柳さんが良いって言ってたんだもん。



「どうもこうも、書いてある通りだって。

俺は重大な機密保持違反。余計な情報を知った矢野さんも巻き添えにせざるを得ない。

可哀想になぁ、うっかり機密を聞いたのは彼女のせいじゃないのになぁ……」



二人はノートパソコンのカメラとマイクを使って会話していた。パソコンのスピーカーからは、仕事中より幾分のんびりとした高柳さんの声が聞こえてくる。


画面に映っている高柳さんはにこやかな表情だ。対して画面を睨む真嶋は、この世の終わりのような顔をして「共謀か」と頭を抱えている。



高柳さんは私に手紙を託すときにこう言っていた。


「いざというときの御守り代わりにこれを持っていってくれ。」


封がされたまま、それを小さく折り畳んでネクタイに挟んで真嶋に巻き付けた。


テーブルの上には「退職願」と書かれた紙。「この度、一身上の都合により………」から始まる定型文の辞表の他に、補足用のメモも置いてある。



『…………

真嶋副社長の存在はトップシークレットであり、情報機密に違反した小職、高柳は責任を取る必要があります。規程により矢野透子も当社社員としての資格を失効します。』



「勝手に辞表など書いて。高柳さんを辞めさせられるわけがないでしょう。自分の立場を何だと思ってるんですか?」


生真面目な先生のように叱る真嶋に、高柳さんはますます楽しそうに笑っている。……この状況で笑っていられる高柳さんはやっぱり色々と超越してる人だと思う。


「ルール違反には罰則が必要、これは大原則だ。君の存在が秘匿されている限り、自分だけ特例を認めろだなんて言うつもりは無いよ。

俺の要望は分かるよね?副社長」


「…………高柳さんは、本当に人が悪いですね。」


呻くように真嶋が呟いている。高柳さんが真嶋に何を要求してるのか分からないけど、様子を見る限り旗色が悪いのは真嶋の方だろう。
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