今夜、シンデレラを奪いに
その時、パソコンのスピーカーから「わぁりっくん待ってー!」という女性の声がした。さっき話題に登っていた高柳さんの婚約者の人だろうか。
フワフワの白と黒の影が横切ったかと思うと、高柳さんの代わりにどっしりとした猫が画面に映り込んでいる。りっくんと呼ばれたのはこの猫のようだ。
「すみませんお仕事のお邪魔をっ!」と慌てる女性に対して、高柳さんは「全然平気、仕事じゃなくてただの恋愛相談だから」と答えている。
ただの恋愛相談………?
一歩間違えば高柳さんだって会社を辞めてたかもしれなかったのに?
フカフカの猫がふわあ、と眠たそうにあくびをしている。少しだけ遠くなった音声で、高柳さんと婚約者の人との会話が続いていた。
「何故か俺に向かって好きな相手への想いを切々と訴えてくる奴らがいてさ。」
「ほわぁ、照れちゃいそうですね」
何言ってるんですか高柳さん!!
高柳さんのことだから会話がこちらに聞こえてくるのは「ついうっかり」なんてことは絶対になくて、だからこれはわざとなはずで……。
「もしかしたら俺は、焦れったいのをどこまで我慢できるか試されてたのかな。
『自分の気持ちが恋かどうかも分からないうちにシンデレラが勝手にいなくなった』とか。『あの童話の王子さまはこんなに理不尽な気持ちになったの』だとか。
『もう一度会えるなら会社をクビになるくらい安いもの』とか。」
「なんと!とっても情熱的な男の人ですね!!」
あああああぁなんてことを…………。
公開処刑ですか高柳さん。
…………やっぱこの人、鬼だ。
「いや、今のは女性。男の方からはもっとたくさん聞いてる。
『目を閉じれば彼女の顔が浮かぶから、笑った顔も怒った顔もすぐに思い出せます。だから、記憶の中の彼女にならいつでも会えます』
『いつか彼女が働くのに相応しい会社にしてみせる。その目標だけで、これからの自分の進む道が明るく照らされているように感じられるんです』
『人前で強がることしかできない彼女を見てると、
流れてくる言葉にびっくりして息が止まりそうになっていると、そこでプチっと音声が途絶えた。
立ち上がった真嶋が接続を切ってしまったらしい。
「急に切らないでよ!勝手に切ったら高柳さんが」
「気を使わなくていいです。最後のは悪ふざけの一環でしょう。」
「続き、まだ聞きたかったのに………」
「古い情報ですから聞く必要はありません。そんなことよりも、」
こちらに伸ばした手に絡め取られて、耳のすぐ後ろから真嶋の声がする。
「透子には恋かどうか分からなかったんですか?
まさか、今も分からないままですか?」
背中にふわっと優しい感触が触れて、堪えられないほど熱くなった。真嶋の体温は温かくて心地良いのに、自分の体だけすっごく熱い。
「俺にはすぐに分かりましたよ。
透子がいつも泣くのを堪えていた頃から」
フワフワの白と黒の影が横切ったかと思うと、高柳さんの代わりにどっしりとした猫が画面に映り込んでいる。りっくんと呼ばれたのはこの猫のようだ。
「すみませんお仕事のお邪魔をっ!」と慌てる女性に対して、高柳さんは「全然平気、仕事じゃなくてただの恋愛相談だから」と答えている。
ただの恋愛相談………?
一歩間違えば高柳さんだって会社を辞めてたかもしれなかったのに?
フカフカの猫がふわあ、と眠たそうにあくびをしている。少しだけ遠くなった音声で、高柳さんと婚約者の人との会話が続いていた。
「何故か俺に向かって好きな相手への想いを切々と訴えてくる奴らがいてさ。」
「ほわぁ、照れちゃいそうですね」
何言ってるんですか高柳さん!!
高柳さんのことだから会話がこちらに聞こえてくるのは「ついうっかり」なんてことは絶対になくて、だからこれはわざとなはずで……。
「もしかしたら俺は、焦れったいのをどこまで我慢できるか試されてたのかな。
『自分の気持ちが恋かどうかも分からないうちにシンデレラが勝手にいなくなった』とか。『あの童話の王子さまはこんなに理不尽な気持ちになったの』だとか。
『もう一度会えるなら会社をクビになるくらい安いもの』とか。」
「なんと!とっても情熱的な男の人ですね!!」
あああああぁなんてことを…………。
公開処刑ですか高柳さん。
…………やっぱこの人、鬼だ。
「いや、今のは女性。男の方からはもっとたくさん聞いてる。
『目を閉じれば彼女の顔が浮かぶから、笑った顔も怒った顔もすぐに思い出せます。だから、記憶の中の彼女にならいつでも会えます』
『いつか彼女が働くのに相応しい会社にしてみせる。その目標だけで、これからの自分の進む道が明るく照らされているように感じられるんです』
『人前で強がることしかできない彼女を見てると、
流れてくる言葉にびっくりして息が止まりそうになっていると、そこでプチっと音声が途絶えた。
立ち上がった真嶋が接続を切ってしまったらしい。
「急に切らないでよ!勝手に切ったら高柳さんが」
「気を使わなくていいです。最後のは悪ふざけの一環でしょう。」
「続き、まだ聞きたかったのに………」
「古い情報ですから聞く必要はありません。そんなことよりも、」
こちらに伸ばした手に絡め取られて、耳のすぐ後ろから真嶋の声がする。
「透子には恋かどうか分からなかったんですか?
まさか、今も分からないままですか?」
背中にふわっと優しい感触が触れて、堪えられないほど熱くなった。真嶋の体温は温かくて心地良いのに、自分の体だけすっごく熱い。
「俺にはすぐに分かりましたよ。
透子がいつも泣くのを堪えていた頃から」