今夜、シンデレラを奪いに
このとき初めてお互いにそうするとわかっていてキスをした。言葉を交わす必要はなかった。


キスの前の目が合った瞬間から、時間が止まってるように感じる。頭の後ろに手が回されると、世界にただ二つしかない宝石ような瞳に長い睫毛が下りる。


今までのどのキスよりもそっと唇が塞がれた。優しいキスなのに何故か心の奥底をあばかれているような心地がする。



「………っ…」


キスが深くなると足元が揺らいでしまう。唇も、顎に添えられた真嶋の手も熱くて、熱の渦に飲み込まれているみたい。


力の抜けた体で立っていられなくなると、傾いた体を抱えられて気が付けばベッドの上に乗っていた。


「今後は余所見を許しません。俺だけを見て」

真嶋の目元に熱っぽさが宿り、ドクンと心臓が大きな音を立てた。いつの間にか借りたジャケットは着ていない。髪と同じように肩を撫でられて、くすぐったいようなざわめく感触に唇を噛む。


「待っ………」


「待たない」


真嶋が私に覆い被さるように膝をついて、ワイシャツのボタンに右手をかけている。胸元がのぞいて見えたので思わず首を捻って目を逸らした。


目に毒。今、そういうの困る。


今まで真嶋を追いかけることに必死で、その後の事は何も考えてなかった。


ずっと、私が真嶋を助けてあげなきゃと思っていたのに、実際の彼は私が守ったり助けたりできるようなヤワな存在じゃなくて。

目の前にいる真嶋は部下じゃないし、後輩でもないし、一人の男の人で…………。


もう一度唇を重ねると、痺れるような甘さにはほんの少しの怖さも混ざっている。


「んっ………急に、こんな………」


「俺になら何をされても良いと言ったのを忘れましたか?

俺は生涯忘れないと断言できるくらい記憶してるんですが。」


耳元に唇をつけて囁かれて、さらに耳朶を噛まれる。頭の中に直接響くような声にクラクラした。
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