今夜、シンデレラを奪いに
そうか。そうですか。

私が真嶋に見惚れている瞬間、あんたは毛虫みたいに変な睫毛だとか下品で悪趣味な服だとか思っていたわけ。


背中のリボンに手をかける真嶋を「待った」と止めた。


「胸から詰め物のようなものがずれて出ていますし、着ているのは不快ではないですか?」


胸元がムズムズして変な感じがすると思えば、真嶋が不思議そうな顔で胸元からパットを摘まみ上げている。


「うひゃぁああああ!違うのこれは見栄を張りたいとかじゃなくっ」



ユリナちゃんが。

3つずつパットを入れるとライターを挟めるって。


…………そんなことを真嶋に言い訳してどうなるというのだ。駄目だこの状況、恥ずかし過ぎる。


「普段の方が良いと思いますよ。不必要に胸を大きく見せることは無いかと。」


「それはどうも…………」


胸にしまいこんだまま忘れていたライターを取り出すと、真嶋が「これには腹が立ちました」と眉をしかめて取り上げる。

そのままドレスを脱がそうとするので体をじたばたさせて真嶋の腕の中から逃げ出した。



無理、無理。


一応私にだって女ゴコロというものがあり、真嶋とそういうことをするならできるだけ綺麗でいたいと思う。たとえ着飾ってメイクしたところで大差ないとしても、だ。


ましてやここまでケチをつけられた格好で、今から真嶋に抱かれたりなんか



「…………無いわー」


「何が無いのです?

胸が小さいというのなら気に病む必要はありません。先程も言ったように俺は気に」


「違うわボケッ。この状況が無いって言ったの!胸のことなんか気にしてないもん!」


「何を急に、そんなに怒っているんですか?」


「あんたが女ゴコロをちっとも理解しないからだっ!馬鹿!あほ!あんぽんたん!真嶋!」


「女心………確かに俺には理解の及ばない分野ですが。

ところで、今俺の名前を悪口の一種として言ってませんでした?」


「そうよ、悪口の語彙が子供みたいだって言うから新しいのを追加することにしたの。

ツラの皮が厚いとかふてぶてしいとかそういう意味だから!」


「つまりこれから俺は透子に名前を呼ばれる度に罵倒されていることになると…………?」



「悪口は言いたい時に言うものよ。

だから、これからはあんたのことを夏雪と呼ぶことにする!」


「………………」
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