今夜、シンデレラを奪いに
その翌朝のこと。



海辺の近くを夏雪と二人で歩いている。

見渡す限りの青くキラキラと光る水面と、優しい木漏れ日に包まれた遊歩道。夏にしては涼しく爽やかな風が吹き抜けて、とても綺麗でロマンチックな場所なんだけど…………。




「観覧車、乗りに行きます?」


「別にいい」


「見たがっていたのでは」


「いいって。

昼間の観覧車には興味ないの。」


「…………さっきから何を怒ってるんですか?」



理解不能というように夏雪が首を傾げる。

今私はめちゃくちゃ恥ずかしい。どうして早く教えてくれなかったんだろう。



「プラシーボの意味をネットで調べた!」


「ああ、そんなことですか。ひとつ賢くなりましたね。」



しれっと言いやがって。しかもクスクス笑ってる。



「薬飲ませてないならそう言ってよ。大事な時に寝た私も馬鹿だけど、それを睡眠薬のせいだと信じ込んでたなんて恥の上塗り…………。

絶対、心の中でひっそり笑ってたでしょ」


「いえ、あの状況なら誰だって眠くなります。

元から眠いところに、さらに薬を飲んだと思い込まされたら眠気に逆らえなくなるのは自然ですよ。」



夏雪が言うには、私は命の危機を感じるほどの極度のストレスを受けたのだから、その後気が緩んだ状態で車で揺られていたら眠くもなるだろうということだった。


彼はその状況を計算して、私を暗示にかけて眠らせたというわけだ。


「笑うというより、透子がどうやって今日まで無事に生きてこれたのか心配になりました。」


「ちゃんと生活してるって。私、天然とかじゃなくて普通だし」


「普通?あなたはお人好しで注意力散漫の上に、向こう見ずだからたちが悪い」


むっとして振り返ると彼の表情は私を茶化すものではなかった。


「今後あのような危険を冒すことは、どんな理由にせよ許しません。」


「…………うん……」


本気で心配されてしまった。返事に困っていると「わかっているんでるか?」と詰め寄られる。
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