今夜、シンデレラを奪いに
エピローグ
それから一ヶ月ほど経って、私はオーク監査部で働くためにエヴァーグリーンを退職する準備を進めていた。
新しい就職先は基本的に機密事項で、表向きにはオークグループ商社の事務職ということになっている。
新たな役員就任のニュースが社内に駆け巡ったのはその少し前の事。
夏雪は自分の年齢が副社長としてマイナスだと思っていたようだけれど、オークグループ内での経歴と容姿のインパクトが強すぎて、年齢の話題どころではなかった。
元企画営業課の斉藤さんは「あいつ御曹司だったのかよ!何も言わないで消えやがって水くせぇなあ」と言っていたけど、明らかに喜んでいたのが印象的だ。
今では、元々社員の注目を集めていた高柳さんと夏雪が二人一緒にいる時の目撃談が女性社員の間では格好の話題となっている。
夏雪は口では色々と言いつつも、高柳さんの事を身近なお兄さんのように慕っているみたい。
「せめて衿がある服を着なさい」とか「パーティーと会議のキャンセルが多すぎます」とか、高柳さんに小言を言ってる様子はなんだか嬉しそうだ。
対して高柳さんは夏雪をからかって笑う事が増えたので、怖いイメージが少しだけ薄らいでいる今日この頃。
「あの高柳さんにに好き勝手言える人初めて見た。」
「仲良さげだよね。私もあの顔で怒られてみたいんだけど。」
「うちの会社の一番の福利厚生は副社長を眺める目の保養だわ。」
夏雪はエヴァーの福利厚生なんだ…………。
想像していたよりとんでもない事態になってるなぁ。
これでは恋人として心配だというレベルを軽く越えてる。
「浮かない顔ですね。どうしました?」
「うわっ
会社で話しかけないでよ真嶋。あんたのファンに殺されそう」
「真嶋というのは呼称でありながら罵りの意味であると言っていませんでした?」
「そーよ、真嶋!」
「その方式はナンセンスです。
罵倒の言葉をいずれ透子自身が名乗るのですから、先々のあなたが困ることになりますよ。」
「なんで私が真嶋
…………。
……………………!!!」
驚いて言葉が出ないでいると、物陰に引き込まれて軽く唇を合わされる。
「ば、馬鹿!」
「馬鹿?
大切な事です。俺はあなたに決して淋しい思いはさせないと誓った。」
「う………」
「浮かない表情は淋しいのかと思ったのですが、違いました?」
「違わない……けど、時と場所を考えて………」
もう一度唇を重ねた後に「淋しかったんですね」と夏雪が意地悪く笑う。
それだけでなく、抱き締めた体をいつまでも離そうとしないので「いい加減仕事しろ馬鹿!」と上司のように叱りつけて彼の腕の中から逃げ出した。
Fin.
新しい就職先は基本的に機密事項で、表向きにはオークグループ商社の事務職ということになっている。
新たな役員就任のニュースが社内に駆け巡ったのはその少し前の事。
夏雪は自分の年齢が副社長としてマイナスだと思っていたようだけれど、オークグループ内での経歴と容姿のインパクトが強すぎて、年齢の話題どころではなかった。
元企画営業課の斉藤さんは「あいつ御曹司だったのかよ!何も言わないで消えやがって水くせぇなあ」と言っていたけど、明らかに喜んでいたのが印象的だ。
今では、元々社員の注目を集めていた高柳さんと夏雪が二人一緒にいる時の目撃談が女性社員の間では格好の話題となっている。
夏雪は口では色々と言いつつも、高柳さんの事を身近なお兄さんのように慕っているみたい。
「せめて衿がある服を着なさい」とか「パーティーと会議のキャンセルが多すぎます」とか、高柳さんに小言を言ってる様子はなんだか嬉しそうだ。
対して高柳さんは夏雪をからかって笑う事が増えたので、怖いイメージが少しだけ薄らいでいる今日この頃。
「あの高柳さんにに好き勝手言える人初めて見た。」
「仲良さげだよね。私もあの顔で怒られてみたいんだけど。」
「うちの会社の一番の福利厚生は副社長を眺める目の保養だわ。」
夏雪はエヴァーの福利厚生なんだ…………。
想像していたよりとんでもない事態になってるなぁ。
これでは恋人として心配だというレベルを軽く越えてる。
「浮かない顔ですね。どうしました?」
「うわっ
会社で話しかけないでよ真嶋。あんたのファンに殺されそう」
「真嶋というのは呼称でありながら罵りの意味であると言っていませんでした?」
「そーよ、真嶋!」
「その方式はナンセンスです。
罵倒の言葉をいずれ透子自身が名乗るのですから、先々のあなたが困ることになりますよ。」
「なんで私が真嶋
…………。
……………………!!!」
驚いて言葉が出ないでいると、物陰に引き込まれて軽く唇を合わされる。
「ば、馬鹿!」
「馬鹿?
大切な事です。俺はあなたに決して淋しい思いはさせないと誓った。」
「う………」
「浮かない表情は淋しいのかと思ったのですが、違いました?」
「違わない……けど、時と場所を考えて………」
もう一度唇を重ねた後に「淋しかったんですね」と夏雪が意地悪く笑う。
それだけでなく、抱き締めた体をいつまでも離そうとしないので「いい加減仕事しろ馬鹿!」と上司のように叱りつけて彼の腕の中から逃げ出した。
Fin.