今夜、シンデレラを奪いに
「鴻上さんっていう、上席コンサルタントの人がいたんだけどさ、異動しちゃって」


「コウガミ……」


「もう、先輩には『さん』を付けなさいよ!」


状況を説明すると真嶋くんの美しい顔が、わざとらしく憐れみの表情に変わった。


「矢野さん、担当の技術も付けて貰えないなんて。

干されてるんですか?」


「違うわよ!文句言う前に真嶋くんも技術のこと勉強しといてよ」


さっきからムカつくことばかり言う真嶋くんに、担当する企業のデータを送りつけて黙らせる。真嶋くんが技術職ならバランスは良かったんだけど、残念ながら彼も営業だ。


この隙に、このムカつく部下の人事ファイルを開いて経歴を確認してみた。25歳、アメリカのMIIT卒業。……やばい、バリバリのエリートじゃないの。


入社後は研修をトップクラスで修了し、営業本部第一課へ配属。2018年4月に企画営業課へ異動。


前の部署にいた期間は短かったんだな……。この性格だもん。上司に嫌われて飛ばされたか、はたまた女性トラブルか。



溜まった仕事を片付けていたら定時はあっという間に過ぎてしまった。真嶋くんはどうやら丹念に顧客ファイルを見ているらしい。生意気だけど、素直で真面目に仕事してるのは大変よろしい。


「お腹空いてるならこれあげるけど、食べる?」


着任初日から残業になってしまった部下は労うべきだろう。引き出しから秘蔵のカップうどんを二つ取り出して見せると、真嶋くんは眉間に深い皺を寄せた。
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