今夜、シンデレラを奪いに
「結構です」


腹立つことに嫌そうな顔をしている。このカップうどん、あまり知られてないメーカーのだけどすごく美味しいのに。


「そういった形状の食品は口にしたことがないので、要りません」


「えぇっ!?」


カップ麺を食べたことが無いだって?そんな20代男子は初めてお目にかかる。相当に意識の高い食生活。どんな育ちをしてるのか想像するのも怖い。



「栄養の偏りは健康だけでなく美容面でも悪影響があります。30前後の女性ならもう少し考えた食事をしては。」



ムカつく!


分かってはいたけど、この憎たらしい物言い。


しかも反則級の綺麗な顔で言われると、無駄に攻撃力が高いのだ。この顔の前で女としてふるまうのは早々に諦めた方が身のためだろう。


「大きなお世話よ。お腹が満たされるのだって大事なんだから。それにこれ作ってる会社はウチの大事なお客さんなんだよ」



嫌がらせついでに二人分作って、強引にひとつを真嶋くんの前に置いてみる。


すると真嶋くんは緊張感を漂わせてカップうどんを持ち上げ、神妙な顔で観察している。


「この鶴丸食品という会社は確かに顧客リストに載ってますね……。」


この顔でそんなことをされると、カップうどんすらNASAから送られてきた最新レーションのよう。


嫌そうではあるけど、目の前に出された食べ物を粗末にはできないようだ。軽く息を吐いて観念したように口をつけている。


「美味しいでしょ?これ、他のとは全然違うんだから」


「…………」


一口食べると、真嶋くんは絶望的な表情で口を覆った。


不味かったのかな?と心配したけど「ありえない」と呟いた後は勢いよく食べる。……食べる、食べる。


完璧過ぎる箸使いの、美しい所作。この様子を録画したらそのままテレビCMになりそうな絵面だ。スープまで残さず飲んで箸を置いた時にはどことなく満足げにため息までついている。



ふむ。

ここは最大の攻撃チャンスだろう。
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