今夜、シンデレラを奪いに
「栄養の偏った、健康に悪い食事は美味しい?」


「くっ……」


屈辱と言わんばかりに頬がひきつっている。初めて真嶋くんの可愛げらしきものを見つけた。


「……ご馳走さまでした」


素直に美味しいとは言えないけど、食事のお礼は言うらしい。このあたりに育ちの良さが滲み出てしまっている。


「ふふー。どういたしまして」


気分が良くなったせいか仕事も捗り、新しい提案資料が完成した。







その翌日のこと。


「こちら3社にアポイントを取ってください」


真嶋くんが見せた社名は、どれも鴻上さんと一緒に代理店契約をまとめた会社だ。昨日熱心にパートナー企業のリストを見ていたけど、一体何をしていたんだか。


「ここで扱ってる製品はもう上層部の管轄に移ってるの。だから私が行ってもできることはなくて……」


「だからです。担当者から直接ヒアリングしたい」


「何をよ?」


「行けばわかります。」



一体何なんだろう。だいたい、着任二日目の部下に訪問先を指示されるなんてありえない話だ。


「よく分からないけど、その話は後でね。新しい案件の提案で忙しいの」


昨日張り切って仕上げた資料を課長に説明する。今回こそは自信を持っていたんだけれど、「このソフトウェアは古いフレームワークで動いてるから使えないよ」と一瞬で却下されてしまった。



「またダメだった……これじゃいつになったら新しい案件を進められるんだろ。」



鴻上さんがいなくなってからずっと、成果らしい成果を上げられていない。所詮私一人では何も出来ないんじゃないかと底無しの不安がやってくる。



「矢野さん」



ムスっとした顔の真嶋くんに話しかけられる。落ち込んだときにこいつの相手はしたくないんだけど………。
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