今夜、シンデレラを奪いに
「客観的に見て、今の矢野さんが成果を上げることは難しいでしょう。」


あまりの言いように睨み返しても「コンサルタントもいないのに、矢野さんが一人で奮闘しても無意味です」と淡々と続けられる。


ただでさえ自己嫌悪モードだったのに、傷口をなぞるような一言。じわっと目頭が熱くなった。



「そうね!コンサルタントをつけてもらえない営業なんか、結局期待されてないのよね。

だからってそれが何?私にできることを頑張るだけよ」


「いえ、事はそう単純ではなく。

そもそも数多くの人材を抱えているのに、企画営業課にコンサルタントが足りないというのが変なんですよ。」


「それは、素質がある人が少ないからって聞いてるよ。すごく貴重な人材だって」


「では何故、その素質を持つコウガミは異動になったんでしょう?コウガミを異動させるメリットが見当たりません。」


「さっきから何が言いたいのよ!それと鴻上『さん』って呼びなさいって言ってるでしょ。」



私には成果があげられないって、本当は薄々わかってる。でもそれを誰かに……とりわけ、部下の立場の真嶋くんから指摘されるのは辛すぎた。


「……やっぱり、いい。今は何も言わないで」


「いえ、言わせてもらいます。

矢野さんを取り巻く状況は、外的要因によって歪められています。」


「……?」


訳の分からない憶測にぽかんと口が開く。


「成果が出ないのは矢野さん個人の責任ではありません。」


「どういうこと?」と聞き返すと「これ以上は知らなくていいです」と返される。



『知らなくていい』


ふいに記憶の底の柔らかな想い出に触れた。真っ暗闇の中、ぶっきらぼうなことばかり言う優しい人が同じ言葉を言っていたっけ。……あの人は会社のどこかで元気に過ごしているのかな。



こいつは、まさかとは思うけどこんな言葉で私を励ましているつもりだろうか。


「真嶋くんね、気を使ってくれてるなら下手すぎるんだけど。」


「いえ、客観的事実を言っています。」


「……ハイハイ、分かった分かった。

真嶋くんの言い方じゃどっちかって言うと傷の上塗りにしかならないから。もう余計な気を使わないで。

ほら、これあげるから。」


下手な気遣いをする部下に、ささやかなお礼として引き出しにストックしてある「キャベッツ小太郎」をあげた。

昨日の反応から想像するに、こういう駄菓子も彼の味覚に合うはずだ。彼の趣味には合わないと思うけど。
< 18 / 125 >

この作品をシェア

pagetop