今夜、シンデレラを奪いに
「何ですかこれは」と不審げに手のひらの上の駄菓子を見つめている。


現実感が無いほど美しい真嶋くんとキャベッツ小太郎。似合わなすぎて合成写真のようだ。その組み合わせが笑えるから少しだけ元気が出てくる。


「懐かしい味で美味しいよ……ってその様子だと子供の頃に食べたことも無さそうだから、懐かしくはないか」


「食べ物?」


「それ以外の何に見えるのよ!」


どうやら彼は相当に浮世離れしてる。カップうどんの時と同じように凄く嫌そうな顔をしてるけど、素直に食べてくれるらしい。


「…………」


「ほらー、美味しいでしょ?」


真嶋くんの表情が暗くなる。眉が物憂げに寄せられて、少しだけ目を伏せている。キャベッツ小太郎を食べてるだけなのに、無駄に艶っぽい。


この顔は前と同じだ。美味しいに違いない。


「案外貧乏舌だよね。B級グルメ好きなんじゃない。」


「…………」


ぱくぱくと食べてるくせに素直に認めないのがおかしい。


「分かったって。周りの皆には言わないでおいてあげるから」


「周囲に知られるかどうかが問題なのではなく、これを旨いと感じる自分を認め難いだけです。誤解しないで下さい。」


「ぶっ……」


素直に降伏したのかと思いきや、訳の分からないプライドとこだわりがあるらしい。……駄目だ、笑いが堪えきれない。笑うと睨まれるけど、頬が少し赤いのが妙に可愛い。



「真嶋くんがアポイント取って欲しいって言ってた会社、一応課長に話をしてみたんだけど」


「ありがとうございます。助かります」


「まあ……どうせ仕事暇だしね。真嶋くんが興味あるならパートナー企業に会うのも良いかと思って。」


「アポイントはいつなんです?」と急かす彼に、ことの顛末を伝える。


「それが、一度は通った申請が全部却下になったの。

なんか変な感じ」
< 19 / 125 >

この作品をシェア

pagetop