今夜、シンデレラを奪いに
「ふっ……それは面白いですね」


「あのさ、悪そうな顔して笑ってるけど口と手に青海苔ついてるからね」


指摘すると、真嶋くんはばつの悪そうな表情でハンカチを取り出した。


ぴしっと折り畳まれていて、シルク製なのかツヤツヤの黒だ。このハンカチだって、まさかキャベッツ小太郎の青海苔を拭かれることになるとは思わなかっただろう。


「今のところは訪問が却下になった事実がわかれば十分です。

矢野さんからはもうアクションを起こさないで下さい。あとは俺が」


「真嶋くんが何するの?」


「分かりきったことを口にしないで下さい。矢野さんも気付いているのでしょう?」


「???

もしかして悪いこと考えてるなら全力で止めるからね?私はこれでも真嶋くんの監督責任があって」


「……矢野さんには影響無いようにしますよ」


「だから何を」と聞き返した時にはもう席を立った後だ。結局真嶋くんに聞きたかったことはなにも分からないままだった。






それから一週間が過ぎ、どこで何をしていても異様に目立つこの部下は、フロア中の有名人になっていた。


「真嶋くんが部下なんて毎日目の保養になりまくりじゃん、うらやましー」

と言われるけど、「それなら代わってよ」と言いたい。見た目はともかく言動がアレなので私のストレス値はうなぎ登りだ。


それに加えて、本人に直接聞きづらいことは私に頼まれるから面倒くさい。


「あんたに彼女はいるのかって何度も聞かれるんだけど!面倒だから背中に貼り紙でもして書いといてくれない?それから、この人たちから連絡先預かったから。」


個人携帯の書かれた名刺の束を本人に渡す。


「矢野さんはいつの間に俺の秘書になったんですか?あなたのようにガサツな秘書は要りませんよ」



このように、日に日に私への態度は横柄になり……


「誰が真嶋の秘書になんかなるかボケっ!」


当初の「くん」付はあっという間に無くなっている。
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