今夜、シンデレラを奪いに
渡した名刺をどうするのかと思えば、驚いたことにすべてシュレッダーにかけてしまった。


「何てことするのよ!」


「個人情報ですから、シュレッダー廃棄は基本ですよ?」


「そういうことじゃなくて……。もう少し思いやりを持てない?いくらモテるとはいえ」


真嶋はあからさまにうんざりした顔をして「違います」と言った。


ちょうど廊下から色めきたった声が聞こえてきた。こういうことは一日に何度もある。「真嶋くんってほら、あそこにいる人」と指差してる人に真嶋が顔を向けると、小さな歓声とともに彼女たちは去ってしまった。


興味本位でじろじろ見られて、顔を向けただけで避けられる。想像がつかないけど……私も同じことをされたらと思うと、辛いかもしれない。


「……ごめん無神経だった。真嶋の苦労なんて知りもせずに」


余計なことまで立ち入ったと反省して、顔の前で手を合わせると、微かに笑ってる気配がする。


「不必要に人目を惹く顔立ちなのは、血筋なので諦めてますが」


ん? やっぱりムカつくこと言ってない?


「矢野さんのように控え目な顔が羨ましくないと言えば嘘になります。」


「あんたね、それわざと言ってるでしょ!!絶っっ対羨ましいなんて思ってないでしょ!」



もう!


少しでもこの男に同情したのが間違ってた。にこっと笑う顔から邪悪さが滲み出ている。


「いえ、とても好ましいと思いますよ。自然と背景に溶け込める容姿というか、大げなさところが何も無いというか……」


「うわぁ嫌味すぎる!」


いつも通りの真嶋の発言に、近くを通りかかった斉藤先輩が吹き出した。


こんな性格してるくせに、真嶋は周りの先輩たちにはけっこう可愛がられている。単純に変だから面白がられてるだけなのかもしれない。


「あんまり苛めると矢野ちゃんも可哀想だからさ。

矢野ちゃん最近ずっと元気ないし、よかったら男でも紹介してやってよ」
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