今夜、シンデレラを奪いに
「暑いなら、涼しい格好すればいいのに」


この時期の男性社員は半袖のカジュアルなシャツスタイルの人が多いのに、真嶋はカッチリとした白い長袖のシャツを腕捲りしてる。平織りの生地は控えめで品が良く、当然のようにシワひとつ無い。


「仕事着を気崩すのは苦手です」


なるほど。ノーネクタイでも構わないのに、きっちりとネクタイまで締めてるのは真嶋のポリシーというわけだ。

落ち着いたグレーのネクタイが真嶋をいっそう華やかに引き立ててる。本人の顔が目立つから、これくらい地味なのが丁度いい。何気なく真嶋の腕を見上げると、シャツの袖に銀の小さな飾りがついていた。


「それ見せて!!」


意味がわからないという顔をして、真嶋が手首の飾りを外す。意外なことにシャツから簡単に取れるらしい。



ツヤツヤしたピンのような飾り。小さな銀色。


「カフリンクスがどうかしました?」


「カフリンクスって言うんだ……。あ!これカフスボタンね。

前にこれと似た物を拾って。ずっと何なのか分からなかったんだけど、これでやっと分かったよ。ありがと!」


鞄に大事にしまっておいたカフリンクスという名の飾りを真嶋に見せる。

暗闇で出会った変な人の落とし物。できるなら本人に会って返したいしお礼も言いたい。


「……あれ、真嶋どしたの?」


さっきまでとは違う意味で、顔色が悪い。


「……早く男を紹介しろということですね。

このような手段での恐喝とは……恐れ入りました。少々矢野さんを侮っていたようです」


「何ソレ?意味わかんないよ。

……そういえばこれ、真嶋が付けてるのとデザイン似てるねー。」


「もう十分です。矢野さんが気が付いているということくらい、初めから分かっていますから!

至急手配しますので好みの男について情報を」


真嶋はどうしてこんなに汗をかいてるのだろうか。彼の体調について真剣に心配になってくる。
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