今夜、シンデレラを奪いに
「別にいいよ、急がなくて」

と言ったのに、彼には通じなかったのだろうか。「いいから、望む相手の仔細を言ってください」と捲し立てられる。


「そこまで言ってくれるなら……笑顔が可愛くて優しい人がいいな。

頼れる先輩って感じで、でもちょっと少年っぽさもあって」


……鴻上さんみたいな。というのは胸の内に飲み込んだ。それなのに呆れた顔をされるのはどうしてだろう。



「そう主観的なことを言われても困ります。

例えば、職業、年齢、身長体重、髪や瞳の色など客観的な情報で示して頂かないと」


「瞳の色!」


そんなグローバルな観点は考えたことが無い。それに改めて聞かれると、どんな男の人が良いかなんて分からなかった。


「とりあえず、ちゃんとした職に就いてる人なら誰でも。あんまりチャラチャラしてない仕事だと理想的かな。

歳はちょっと上くらい。30前後とか」



「歳上………」


「何か言った?」




「いえ。

……いいでしょう。望みの相手を用意しますよ。手堅い職種なら医者や官僚、法曹関係ですね。どれがいいですか」


その中から職業を選べるなんて、真嶋の交遊関係はどうなってるの!


軽い気持ちでお願いしただけなのに、これじゃ、本気のお見合いみたい。


「私みたいなのと会ってくれるなら、誰だっていいよ。でも相手の人に申し訳ないような……」


どんな人が来ても気後れしそうだなと心配していたら、「先方には矢野さんのことを伝えた上で了承を取りますから、問題ありません」と教えてくれる。意外と気がきく。


「そのため矢野さんの年齢、身長、体重を教えて貰えますか?

スリーサイズ……は見ればだいたい分かるから別にいいか」



…………。


平然とスマホを構えて、メモでも取る気なんだろうかこのデリカシー皆無の男は。


「体重とかスリーサイズとか言えるわけないでしょう!」


「では非公開、と。中肉中背と伝えます」


「正しいけどさ……。その言い方、酷くない?」


結局、真嶋なのだ。デリケートな配慮を期待した私が間違っていた。


「最後に重要な確認事項です。矢野さんの婚姻、妊娠、出産の回数は」


「あるかボケっ!!」


まだ嫁入り前なのに!いくらなんでも質問が酷すぎる!!


怒鳴り付けた後はムカムカしながら仕事に戻る。そのせいか、真嶋の体調を確認したいという当初の目的はすっかり忘れてしまっていた。
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