今夜、シンデレラを奪いに
ノートパソコンの画面に『S.Kougamiからのメッセージ』のポップアップウィンドウが表示される。


突然のことに、キーボードを打つ手が止まった。ドキドキしながら画面をクリックする。


『真嶋くんって矢野の知り合い?』


『はい、企画営業課に新しく配属された新人です。彼が何か……もしかして失礼なことでもやらかしましたか?』


真嶋は仕事の用件で鴻上さんに会いに行ってるはずだ。急いで返信を打つと、すぐに新しいメッセージが返ってきた。


『失礼ってわけじゃないけど、俺が異動したのは本人の希望かどうかって聞かれて。変なこと聞く奴だなーと思ってさ。』


真嶋はどうしてそんなことを鴻上さんに聞いてるんだろう。


『真嶋くんには、戦略事業部に最近の技術トレンドをヒアリングするように依頼しただけなんですけどね。

彼はちょっとかなり、凄く変な人なんで気にしないで下さい。』


『そういえばそういう話も少ししたかな。矢野の指示で来たってことは、あいつは矢野の部下?』


『便宜上、一応そんな感じに』


『おめでとー(^_^)/□☆□\(^_^)
ついに矢野に部下!やるねぇ!』


派手な顔文字に笑ってしまった。だけど……


『部下を付けられても私には何もしてあげられることがないので、プレッシャーですよ。やたらと優秀だから余計に申し訳無くて。』


『そんなことないだろ、矢野の元で働ける奴は幸せだよ。』



いつもいつも、鴻上さんは優しい。


『前みたいに契約を取れるなら良かったんですが』


『長年一緒に仕事してた俺が矢野なら大丈夫と思ってるんだけど、お世話になった先輩様の意見を信用してくれないのかー?』


危うくオフィスで泣きそうになってしまった。鴻上さんはいつもこっちの事情などお構いなしに優しいから困る。

もう、頼ってはいけないのに。
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