今夜、シンデレラを奪いに
『実際、一緒に仕事してて俺は何度も助けられたよ。

今は誰と組んでるの?斉藤さん?』



雨のように注がれる優しい言葉たち。乾いた心に染み透って、甘えてしまいたくなる。


『斉藤さんは引く手あまたのコンサルなんで、私みたいな若手にはつけて貰えませんよ。しばらく技術の担当はつけられないって言われました。』



それきり返信が来なくなった。多分急ぎの仕事でもあったんだろう。周りに悟られないように小さくため息をつく。




その時。



『その件詳しく。19時にルミナスレイン来れる?』



急に飲みに誘われて、今度こそ椅子から飛び上がった。ルミナスレインというのはこの前鴻上さんとギムレットを飲んだバーだ。


大急ぎで仕事を片付けて、メイクを丁寧に直してバーに向かう。



「矢野、髪切ったんだねー。なんだかデキル女って感じ」


「ありがとうございます。でもこの髪型まわりに不評なんですよ」


久しぶりに見る少年っぽい笑顔。鴻上さんと些細な事を話しているだけで楽しくてしょうがない。


「こっちの仕事も楽しいけど、ボスがとにかく恐ろしくて頭のキレる人でさ。高柳さん、知ってるでしょ?

次こそ文句言わせねーぞって思ってるんだけど、ミーティングの度に怒られるんだよなぁ。」


「鴻上さんほどの人が?大変な部署ですね……」


「俺なんてまだまだ。采配ミスってチームの奴らに迷惑かけて、自己嫌悪の繰り返し。」


「そうなんですか!?」


「そんなもんだよ。案外、自分から見て大人に見える奴でも自信満々で仕事してる人なんかいないよ。

……部下がつくと、そいつらを巻き込むことになるから余計に悩むことは増えるわけ」


「…………」


「だから、矢野が今焦ったり悩んだりしてるのは健全だよ。それだけ部下を大事に考えてる証拠。」


「……ありがとう、ございます」


鴻上さんは、私を元気づけるために自分の仕事の話してくれたんだ。これ以上好きになっても仕方ないのに、大好きな所が増えてしまう。
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