今夜、シンデレラを奪いに
最悪なことに、道端に呆れ顔の天使が立ち止まっていた。


「っぐ……どうしてこんなとこに真嶋がいるのよ」


「通りすがりに上司の声が聞こえたので、つい足を止めまして」



ここは通りすがるような路地とは思えないんだけど!

反論したいのに、泣いているので言い返すタイミングを失う。


「およそ女性らしからぬ下品な物言いに驚いていた所です。

化粧室なら向かいのコンビニエンス・ストアにありますよ。」


「ご親切にどうも!!」


こいつ……!さっきの全部聞いてたんだ。


今はとにかくこの場を逃げたい一心で、コンビニに方向転換した。


だいたい『コンビニエンス・ストア』とか『化粧室』って言い方は何よ。コンビニとかトイレって言え。

どうせ私は下品ですよ!と、やさぐれた気持ちで心の中に文句を溜めていると腕に強い力がかかる。


「まだ何か言いたいわけ?」


振り返らずに手を払おうとすると、急に目の前が真っ暗になった。柔らかな肌触りが瞼をかすめて、思わず足を止める。


「……わざわざコウガミに会いに行くから泣くことになるんですよ。馬鹿ですね。」


「馬鹿でけっこう!それと呼び捨てはやめなさい!」


真嶋がハンカチで私の瞼を押さえた。前に見たのと同じように、ツヤツヤして綺麗にプレスされて、私なんかの涙には到底似合わないハンカチ。


早く泣き止まなきゃと思うのに、ただじっと真嶋に涙を拭かれている。



「そうまでして、好きな男に泣き顔を見られたく無いという感性は解せません。

一般論で言えば、涙を武器にするという考えもある程ですが」


好きな男の前っていうか、本当は誰の前でも泣きたくない。剥き出しの感情は誰かを困らせることにしかならないから、人前では包み隠すものだと思っている。


「……例えば今この状況を誰かに見られたとしたら、圧倒的に男の人が悪者みたいに見られるじゃない。

私が勝手に泣いてるだけだとしても、女を泣かせてると思われるから。」


「赤の他人の視線なんかどうでも良いのでは?」


「でも鴻上さんに恥をかかせたくないし。

真嶋だって困るでしょ。あんたはただでさえ目立つんだからっ」


「だから一人にして」と言おうとしたら、後頭部を強く押さえられた。真嶋の胸元に顔が当たって、それでも構わずにぐいぐいと顔を押し付けられる。


「……っ?

な……??」
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