今夜、シンデレラを奪いに
「まぁ……なんと思い遣りの深いお方でいらっしゃいますこと!

それではお言葉に甘えさせて頂きます。夏雪さん、お医者様をお呼びしたので奥へどうぞ。

……全く、ご無理ばかりなさるからですよ。毎日ちゃんとお食事を召し上がっているのですか?」


小日向さんは住み込みのお手伝いさんなのかな。心配性のお母さんのようで見ていて微笑ましい。真嶋も矢継ぎ早に飛んでくる質問に穏やかに答えていて、日頃の凶悪さが嘘のようだ。


私はまるで高級旅館のような佇まいの離れに案内して頂いて、慣れない雰囲気にきょろきょろと辺りを見渡していた。床の間に大輪の百合の花が活けられていて、窓からはライトアップされた庭園が見える。


「豪華過ぎて、もう現実感ないや……」


お風呂を使わせてもらって、檜の広い湯船につかると緊張が解けていくのを感じた。



「はぁー、あったまるー。

真嶋、具合は大丈夫かな……」



淡い朱色の浴衣に着替えて部屋に戻るとノックの音がする。

さっきは小日向さんが「こちらがお風呂で」「お着替えとお化粧品はこちら」「お夜食はお持ちして宜しいですか?」と怒濤の勢いで親切にしてくれたので、また来てくれたのかなと引き戸をあける。


でもそこにいたのは彼女じゃなかった。


「ま、ま、真嶋!?」


「何をそんなに驚いてるんですか?」
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