今夜、シンデレラを奪いに
「全部すごく美味しいっ。夜中にこんなに食べたら絶対太るのに」


「体型を気にするのなら、定期的な運動の習慣を持てば良いじゃないですか。」


暴食中には絶対に言われたくない言葉に喉を詰まらせた。いつも通りの無神経さにムカついたので嫌みの応酬をする。


「確かに真嶋はマメにトレーニングとかしてそうな体型だよね。あんたが実はめっちゃナルシルトなのは分かってるのよ。」


そう指摘すると、心外だと言わんばかりに真嶋が顔をしかめた。


「鍛えているのは必要があってのことです。大学の時に住んでいた地区は日本ほど治安が良くなかったので。

女性はともかく、しつこい男に迫られると大変なんですよ」


「そぉ……」


真嶋ともなると女性だけじゃなく男性からも迫られてしまうんだ。確か最終学歴はアメリカの有名な工科大学だったはず。


「東洋人は童顔で体格も華奢に見えるようなので、俺なんか姫扱いですよ。」


「あはは、姫って」


笑ったら仏頂面が酷くなる。真嶋には大変な思い出なのだから申し訳ないけど、むすっとした真顔で「姫」とか言われたら笑わずにはいられない。


「ごめんごめん、だって世の中の全女子を敵に回すような愚痴なんだもん。

私も一生に一度くらいお姫様扱いされてみたいなぁ」


「矢野さんも案外そういうことを思うんですね」


「どうせ叶わないんだから、思うくらい自由でしょ!」


真嶋は何を考えてるのかじっと黙ってる。不自然に沈黙が長いなと思った時には、静かな寝息が聞こえてきた。



「……もう、急に寝ないでよ」


やっぱり今も体調が悪いんだろう。点滴を打ったといっても具合がすぐに良くなるはず無い。だから早く寝なさいと言ったのに。
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