今夜、シンデレラを奪いに
「同じ部屋に二人でいるのは無理とか言ってたのに、結局寝るんだもんなぁ……」


見た目よりずっと重たい真嶋の体をずりずりと引きずってお布団に乗せる。持ち上げられないから最終的にはごろんと転がしたのは目を瞑って貰おう。


もう一度額に手を当ててみると、まだ熱かった。何も無いよりマシだと思うので、タオルを冷して額にのせておく。



「……本当に綺麗な顔」



目を瞑っても少しもインパクトの減らない繊細な美しさ。いや、目を瞑っているからこそ普段とは違う無垢で危うい魅力が出てしまっている。


もし私が芸術家なら、真嶋にインスピレーションを得て絵画や音楽を生み出すだろう。写真家なら、最高の一枚を残そうと躍起になるかもしれない。


でも私はそういう才能は何も無いので「真嶋の顔を見ながら酒が飲めるな」というしょうもない感想に落ち着いた。


でもそれは真嶋が黙ってる時の話。起きた瞬間に憎まれ口の嵐なので鑑賞どころじゃなくなる。

それに、目立つ容姿のせいで何かと迷惑を被っている真嶋に「その顔をずっと見ていたい」と言ったらきっと嫌がられるだろう。「セクハラですか?」と言われるのがオチだ。


寝てる今だけが最初で最後の機会かもしれないと思って、近くに座布団を持ってきて好き放題に真嶋を眺めていた。








「ん……」



急に顔のそばで声が聞こえてくる。お布団の上で身動きしてる静かな衣擦れの音。真嶋が起きたらしい。


それはいいんだけど、問題なのは私がうっかり真嶋の隣で寝てしまったことだ。

顔を眺めて寝落ちしたことがバレたら、恥ずかしいどころの騒ぎじゃない。これではあきらかに不審人物だ。


そういうわけなので、うつ伏せなのを良いことに私は寝たフリを決め込んだ。真嶋が急に寝てしまったように、私も倒れるように寝てしまっただけなんです他意はないんですごめんなさい、と祈るような気持ちでじっと身を固める。


「…………」


頭に何かが触れた感触がした。まだ寝ぼけてる真嶋の手か何かがあたったんだろう。寝ぼけたままでこの部屋を出てくれたら最高だ。





あれ?

もう一度、頭にフワフワとした淡い熱が掠める。柔らかで心地いい感触。




え??

何度もその心地よさが訪れて、目を瞑っていてもさすがに分かった。髪を撫でられている。まるで壊れ物を扱うように優しく、ゆっくりと。




何故真嶋が私の髪を撫でる?


説明してほしいけど寝たフリしてたのがバレるから聞くこともできない。
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