今夜、シンデレラを奪いに
顔の横からそうっと後ろに流すように髪を撫でられる。耳にも少しだけ手が触れた。昔付き合っていた人にもこれほど優しく撫でて貰ったことは無かったかもしれない。



うつ伏せで身動きもできずにいるけれど、手が触れる度に目をぎゅっと瞑っている。心臓もばくばくとせわしなく鼓動する。



落ち着け私。冷静になって真嶋が髪を撫でる理由を考えるんだ。


その一、ぬいぐるみを撫でるような気持ち。フカフカして落ち着くのかもしれない。

そのニ、女性の髪が異様に好きな変態。もしそうだとしたら、真嶋なら世界中の女性の髪を撫でさせて貰えるだろう。

その三、私が寝たフリしてるのが実はバレてて、どっきりを仕掛けている。


やっぱり『その三』なのかなと考えていたら、急に体を抱き上げられた。



「……………………!」



な、な……!?


息が止まるかと思ったけど、すぐにお布団の上に寝かされる。掛け布団が優しく肌に乗った。



しかしここはさっきまで真嶋が寝てた場所。体温の残ったお布団にくるまれて、きゅうっと胸が変な音を立てる。


「……早く、元気になってください」


静かに呟いて、真嶋は音を立てることなく部屋を出ていく。


早く元気にならなきゃいけないのは真嶋の方でしょう?私はどこも体調悪くないんだから。


一人残された部屋で心の中で疑問を投げて、

「あ」

やっと気がついた。私は昨晩鴻上さんにフラれたばかりだった。


それなのに今まで忘れていた。真嶋の実家に連れてこられて落ち込むどころではななくて、翻弄されているうちにもう朝を迎えようとしている。


「……変なの」


真嶋のくせに優しいなんて生意気だ。

生意気な部下にしてはぬくぬくと優しい熱を残したお布団の中で、私は至福の二度寝に落ちていった。
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