今夜、シンデレラを奪いに
「念のためお伝えすると、相手は当社……エヴァーグリーンの顧問弁護士も勤めているので」


「そんなお偉いさんだなんて聞いてないよ!!私なんか釣り合わないって……」


「問題ありません。粗相の無いよう準備すれば良いのです」


真嶋は白い紙を手渡してきた。結婚式の招待状のようなカードにお洒落な横文字が並んでるけど、何の事やらわからない。


「え?これなに……」


「矢野さま!お車の準備ができておりますので、さぁこちらへどうぞ!」



内容について質問する間もなく小日向さんに捕まってしまった。

電車でいいですと断っても「夏雪さんの上司にご無礼を働いては末代までの恥ですから!」と頑として引いてくれない。


「矢野さまさえ宜しければ、ぜひ夏雪さんのお嫁に……」


「あははは、それ真嶋さんが聞いたら本気で怒ると思いますよ」


ちょっと時代錯誤な感じがするけど、とても人の良い小日向さんに見送られて真嶋家を後にする。



………………までは良かった。





「真嶋っ これはどういうことなの!?

もっのすごく痛かったんだけど!私のこと殺す気なの?」


「不摂生だと痛みが強いと聞きました。矢野さんの日頃の行いの現れでしょう。」


素敵なサロンに到着したかと思えば、「ちょっと我慢してくださいね」の一声で悶絶するようなマッサージが始まる。

この痛い施術が永遠に終わらないんじゃないかと絶望しかけた頃に、やっと解放された。今は真嶋に事情を聞くために電話したところだ。



「ブライダル産業を手掛けている親の事業の一環です。シンデレラプロデュース……とか言ってたかな。

矢野さんのご感想は利用者の声として伝えておきますね。『殺す気か』と。」



「………………!

やめなさい。」



家業なら始めに言っておいて欲しい。知っていればもう少し言葉を選んだのに。


それにしても、実家がブライダルや美容事業を手掛けてるのに、真嶋は家業を継がずにエヴァーグリーンに入社したんだ。

エヴァーグリーンは確かに大企業だけど、家業を無視してまで一介のサラリーマンをする必要あるのかなあ……。
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