今夜、シンデレラを奪いに
でも真嶋家の事業に想いを馳せたのは一瞬で、その後もメニューは続いていく。顔中に針を刺される針治療だとか、体の毒素を取り去るお灸とか。


気がつけばずっと続いている肩凝りが消えてスッキリしてる。ハーブティーを淹れてもらってひと息ついた。



「矢野さまは、美しいとはどういうことだと思いますか?」


ぼけっとお茶を飲んでいると、鈴を転がすような可愛らしい声でエステティシャンの女性に尋ねられる。



美しいとは?


うっかり「真嶋」と答えたら不思議な顔をされてしまい、慌てて言い直した。



「憧れかな。遠くて眩しいもの。……そういう感じです」



うふふ、と上品に女性は笑って「今日でその考えを変えてみせます」と言う。結局、答えは教えてくれない。


「本日はインナービューティーを目覚めさせる特別なコースとして承っております。

パートナー様からの思いやりに溢れたプレゼントですから、どうかこの後も存分に楽しんで下さい。」


「プレゼント?」


「はい。とっても愛されていらっしゃいますね」


何の事やら、だ。

状況から察すると、真嶋がお会計してくれてるらしい。いくらお母様の事業でも私に大盤振る舞いしてくれなくていいのに。後で払っておかないと。



その後、体が疲れきった頃にヘアメイクとネイルケアが始まった。髪を切られながらついウトウトして、目が覚めるなりここを出ようとすると、そっと肩に手を置かれた。



「最後の仕上げが残ってますよ。

デートに相応しいお洋服をお召しになって、ご自身を今一度ご覧ください。」



ドレスアップまでがサービスになっていたらしい。

自分じゃ絶対に選ばないと断言できるミルクティーのような色合いのノースリーブのセットアップを来て、10メートルも歩けないほどの高いピンヒールを履く。


これはもうコスプレ並の変装だなと思いつつも、鏡を見た時に「ほええ」と間延びした声を出してしまった。



「どうぞ、ご自身を見つめてください。

私がこの仕事をしていて、二番目に好きな瞬間です」
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