今夜、シンデレラを奪いに
「二番目……というのは?」


「一番の瞬間はもう少しだけ後ですから、まずはご自身の姿を目に焼き付けてくださいね。」


促されるようにもう一度鏡を見ると、気のせいか顔がいつもと比べて二割くらい小さくなってる。睡眠不足のクマも消えて、肌はツヤツヤぷるぷるだ。

丁寧にメイクして貰ったお陰で、瞬きする度に睫毛が上下するのが見える。髪型はぐんと女らしく変わって、緩く巻かれて揺れている。



あくまでもいつもの自分と比べての話だけど。



…………少しだけ、すこーしだけ綺麗なったかもなんて、恥ずかしい感想を思ってみたり。



横を向くと、耳には華奢なピアスが輝いていた。細いチェーンの先に小さな紫の石が光って、うっとりするほど綺麗。


「パートナー様は心配症かもしれませんね。

アメジストは古来より強力な魔除けとして珍重されてきた宝石ですから」


「これは……こちらで選んで頂いた物じゃないんですか?」


「はい。アクセサリーはお預かりしていたものです。とても良くお似合いですよ。」


「本当ですか!?」


これは真嶋が用意したの?

その時静かなノックの音が聞こえて、エステティシャンのお姉さんがキラキラと目を輝かせる。



「さあ、パートナーの方がお迎えにいらっしゃいましたよ。ここからが私の一番好きな瞬間です。


いっそう美しくなった恋人にうっとりして、熱い眼差しで見つめられることでしょう。心の準備はできてますか?」








ドアを開けると仏頂面の真嶋がいた。



うっとり?熱い眼差し?



もちろん、そんなわけがない。良く見ると眉間にシワを寄せて不機嫌そうな顔をしている。


「これほど変わるとは聞いていない」


期待はずれのリアクションにエステティシャンのお姉さんの表情が固まっている。恋人という前提が違うのだから無理もない話だけれど。

真嶋はつかつかと歩み寄ってきて、何を思ったのか肩に手を回す。


「ななな、何!?」


「矢野さんをお姫様扱いしに来ました。

一生に一度くらい、されてみたいと言ってたでしょう?」
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