今夜、シンデレラを奪いに
真嶋は呆れが混ざったような表情で言葉を続けた。


「俺が勝手にやった事ですから請求する筈ないじゃないですか。

そうやって男の立場を考えないのは悪い癖ですよ。贈り物に険しい顔つきを返されたら、大抵の男は困ります。」


そういうもの……なのかな?


「でもほら、このピアス。イミテーションには見えないしこんな贅沢なものは……」


「よくお似合いです。これ以上の説明は要りませんよね。

それとも、もう一度同じ講釈が必要ですか?」


これ以上遠慮を見せたら本当に怒られそうだ。だんだんと真嶋の講師っぷりが板に付いてきて、逆らえなくなってくる。


「…………ありがとう。これ、凄く綺麗だね」


「良くできました」


運転しながらちらっとこちらを向いた笑顔がキラキラと光って見えて目を見張る。

真嶋の笑顔は見慣れているつもりだけど、普段見ているのは嫌みを言うときのニヤーっとした笑いか、営業スマイル的なお行儀の良い笑顔のどちらかだ。

こんなふうに柔らかな笑顔も持っているなんて知らなかった。




海浜エリアに近い一軒家のレストランにつくと、小さな森を思わせる木々を潜り抜けて席に通される。その少しの距離を歩くの間も真嶋に手を添えられるので、歩くのがぎこちなくなくなってしまう。



席につくと、溜め息が漏れるような美味しい料理と共にシャンパンが注がれた。でもお酒を飲むのは私だけだ。


「こんなに美味しいお料理なのに真嶋は運転で飲めないなんて。私だけ飲んでごめん」


「今夜は矢野さんが酔わせてくれるので酒は必要ありません」


「あ、アホか……」


突然の言葉にびっくりして悪口を返すと、白い視線を投げられて「やり直し」と言われる。真嶋の講師モードは続いているらしい。


「そう言われても。どっちかって言えば私の方が真嶋を見てるだけで酔いそうなんだけど……」


真嶋が困ったように横を向いた。できの悪い生徒に言葉を無くしたのかもしれない。
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