今夜、シンデレラを奪いに
これでは肝心の相手に会う前に体力が尽きてしまうんじゃないかと心配したけど、何とかお見合いの時間まで持ちこたえたらしい。




「はじめまして、立花 竜馬(たちばな りょうま)です。主に企業の顧問弁護士をしています」


「はじめまして。矢野透子です。情報システム会社の営業職で、そちらの真嶋……さんと、一緒に働いております」



広い畳の部屋。時折響く鹿威しの音。着物とスーツで差し向かい、中央には真嶋が仲人のように座っている。


場所と服装のせいで非常に堅い雰囲気だ。そこにいるなら仏頂面で黙ってないで何か喋ってよ真嶋。

しかし最初に口火を切ったのは立花さんで、相貌を崩して真嶋に話しかける様子からは気さくな性格が垣間見れた。


「ナツ、久しぶり。元気だった?今回の話は君らしくない誘いだったから驚いたよ」


真嶋とは親しいみたいだ。ナツ、という呼び名はナツユキのナツだろう。


「一言では言いにくい事情がありまして」と困惑顔の真嶋に、人懐っこい笑みを浮かべてアレコレと話しかけている。


立花さんは理知的で爽やかな顔立ちをしていて、切れ長の瞳は笑うと線のように細くなる。歳は30代前半くらいだろうか。


真嶋に見慣れていなければイケメンっぷりに目を伏せていたと思う。まったく、真嶋のせいで格好いい顔立ちに慣れてしまうとは恐ろしい悪影響だ。


「でも、こんな美人を紹介してもらえるなんてラッキーだな」


という思ってもない言葉が飛んできて、注意深く後ろを振り返る。すると真嶋が不審げに首を傾げた。


「何してるんですか?」


「誰か別の人と勘違いしてないか確認してたんだけど」


「……馬鹿はそうそう直らないか。

こういった席での賛辞は、お世辞や挨拶代わりと考えるのが常識でしょう。」


ボソッと呟かれて、思わず胸の前で拳を握りしめる。


「あはは、面白い人ですね。月並みな質問ですが、ご趣味は何ですか?」


「趣味……と言えるほどではありませんが、美味しいものを食べることは好きですね。」


「確かに……駄菓子とか、インスタント麺とか詳しいですよね。

矢野さんにはいつも、とても美味しいジャンクフードを紹介して頂いてます。」


「ぬぉう!?」


真嶋のから変な合いの手が入り、余所行きの顔が崩壊する。昨日はエスコートだ、練習だ、講師だと色々と私に入れ知恵をしていたのは何だったのか。
< 48 / 125 >

この作品をシェア

pagetop