今夜、シンデレラを奪いに
「余計なことを……!上手く猫を被れと言ったのは真嶋の方でしょ」


「猫を被るとか自分で言ってたらもうおしまいですけどね。」


「あっははは、ナツも女の人にズケズケ物を言うことあるんだ」


振袖まで着ているのに、いきなりジャンクフードの話題にすることはないでしょうに。


立花さんは笑ってくれてるけど、これは何か違うんじゃないだろうか。私の知ってるお見合いとは何かが……。


「そうだ、ドラマとかでは『それでは、後は若い二人で』とかってよく言ってるよね」


「若い二人?矢野さんと俺が二人になっても意味がないですが」


無表情で天然ボケをかましてくる真嶋にコケそうになる。


「こういうときの常套句でしょう!分からない?」


「早く立花さんと二人きりになりたいということでしたら、女性から声高に叫ぶのはいかがなものでしょうか。

初対面の相手には相応の慎みを……」



嫌味全開の真嶋の指摘にもう一度膝の上で拳を握りしめた。でも、予想外の声にその手をほどく。


「確かに透子さんの言う通りだ。

ここは定番通り、中庭の散歩にでも行こうと思うんだけどどうかな?」


立花さんは席を立って、テーブルを回って私の隣に近づいてくる。「さあ」と差しのべられた手は昨日の練習と全く同じだったので。


「…………はい」


ごく自然に右手を重ねた。昨日のようなハイヒールではないものの、着物で歩きづらいのでその手に頼って歩みを進める。


部屋の入り口までくると、立花さんが真嶋を振り返る。


「ナツ、今日はありがとう。後は透子さんと二人で楽しんでくるから。」



「……トウ……」


真嶋が微かに唇を動かしたけど、私と同じように立花さんにも聞き取れなかったらしい。


「ナツ、どうかした?」


「いえ、特には。……お気をつけて。」


歩き始めると、胃をぎゅうぎゅうと締め上げる帯がいっそう重たく体を締め付けた。
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