今夜、シンデレラを奪いに
2章

6 新米上司の憂鬱

今日は社外向けのセミナー開催日。朝イチに出席者名簿を入念にチェックした。マイクのテストをして、座席と会場に汚れが無いか最終確認する。


「真嶋の担当分の技術トレンド情報のところ、5分くらい講演時間延ばせる?」


「構いませんが、全体の時間は問題ないですか?」


「大丈夫、会社紹介をちゃちゃっと終わらせるから。今日はリピーターのお客さんばかりだから、技術的な内容を深めた方がウケが良さそうだし。」


「セミナー申込数は100名を越えてますよ、相手を覚えてるんですか?」


「会ったことあるお客さんはもちろん覚えてるよ。営業の基本!」


たまには上司らしいことを言えたと満足していると、「技術用語の覚えは悪いのに不思議ですね」と返される。


週末には「透子」とか呼ばれたりしたから会社ではどうなることかと思いきや、呼び名はすっかり「矢野さん」に戻っている。それどころか週末のことを全部忘れてるのかのような態度だ。


異様に気持ちの切り換えが早い真嶋に対して、私の方が変にソワソワしてしまう。例えば、髪を撫でられたこととか、デートみたいな時間を過ごしたことを思い出して、つい真嶋の横顔を眺めてしまったり……。


いかんいかん。これじゃイケメン部下に浮かれている変態セクハラ上司だ。気を引き締めなければ。
< 54 / 125 >

この作品をシェア

pagetop